2017-10-16

オオスミヨウジョウゴケ



 上の写真、くすんだ淡い緑色をして、葉(背片)の縁が白っぽくなっているのは、オオスミヨウジョウゴケ Cololejeunea lanciloba でしょう。 あちこちに樹木が植えられている比較的明るい公園の岩に密着していました。 葉についている円形のものは無性芽でしょう。
 本種の分布は、平凡社の図鑑では九州、琉球となっていますが、近畿でも兵庫県、和歌山県、奈良県などでも点々とみつかっています。 大阪市内の靭公園でも確認され、Nature Study 57(3),2011 に載せられています。


 上は腹面から10枚の写真で深度合成したものです。 腹葉がありませんが、クサリゴケ科で腹葉が無いのは Cololejeunea(ヒメクサリゴケ属)だけです。
 腹片は大きく、背片の半分近くの長さがあります。 赤い円で囲んだ腹片が他のものと形態が異なるので、これを顕微鏡で観察すると、


 造卵器らしきものが透けて見えました。 これを露出させ、深度合成すると、


 造卵器がこんな所にできるのか、造卵器でなければ何なのか、よく分かりません。
 そして、他の腹片は・・・




 腹片には第1歯と第2歯が観察されます。 ほとんどの腹片の中に袋状のものが見られるので、腹片を開いて撮ったのが下です。


 これが何なのかも分かりません。


 上は背片で、縁には他の細胞と異なる薄壁でほぼ透明な細胞があります。 平凡社の図鑑の検索表ではこの細胞は背片の全周にあるようになっていますが、どのオオスミヨウジョウゴケでも全周にあるとは限らないようです。


 上は葉身細胞です。

(2017.10.4. 奈良県 川上村)

2017-10-15

ナミゴヘイゴケの花被

 ナミゴヘイゴケ Spruceanthus semirepandus は前に載せていますが(こちら)、花被をつけたものがありましたので、深度合成(多焦点合成)したものを載せておきます。


 シダレゴヘイゴケなどの花被は側枝に頂生しますが(こちら)、本種の花被は茎に頂生し、苞葉は鋸歯状です。 なお、背片も前に載せたものより歯が多いのですが、これは個体差でしょう。

(2017.10.4. 奈良県 川上村)

2017-10-13

山のコモチイトゴケと町のコモチイトゴケ

 従来コモチイトゴケ Pylaisiadelpha tenuirostris とされていたコケは町の中でもよく見られる普通種ですが、これとよく似たコケにケカガミゴケ Brotherella yokohamae があります。
 この2種のコケは、上に書いた学名では別属になっていますが、これまで同種とする見解や、別種だが同属だとする見解がありました(こちら:蘚苔類研究 8(8),2004)。 例えば平凡社の図鑑の編者である岩槻博士は両者を同種とされていたので、平凡社の図鑑にはケカガミゴケの名前はありません。
 盛口満著「コケの謎-ゲッチョ先生、コケを食う」(どうぶつ社)に度々登場するキムラさんに、最近の見解を聞くと、町でよく見かける従来コモチイトゴケとされていたものは Pylaisiadelpha yokohamae で、従来コモチイトゴケの学名とされていた P. tenuirostris は山に多いということです。 前者をケカガミゴケと呼ぶべきなのかはわかりませんが、キムラさんは前者を「町のコモチイトゴケ」、後者を「山のコモチイトゴケ」と呼ばれていました。
 両者の形態的な違いについては、Tan & Jia(1999)によると、P. yokohamae の葉はほとんど曲がらず真っ直ぐですが(こちら)、P. tenuirostris の葉の先端部は大きく鎌状に曲がっています。

 以下は、2017.10.4.に奈良県の川上村でキムラさんに教えてもらった P. tenuirostris(「山のコモチイトゴケ」)です。


 上は樹幹に着生している様子です。


 上の写真の上が乾いた状態、下が湿った状態です。 上の写真でも葉の先端部が鎌状に曲がっているのが分かります。


 葉は先端部がハイゴケのように曲がっているので、プレパラートはどうしても上のような状態になります。 翼部は明瞭です。


 上は翼部の拡大です。


 上は葉身細胞です。

【参考文献】
Tan B. C. and Jia Yu, 1999, A preliminary revision of Chinese Sematophyllaceae. J. Hattori Bot. Lab. 86:1-70

2017-10-12

ヤマトサンカクゴケ


 写真はヤマトサンカクゴケ Drepanolejeunea erecta でしょう。 黄緑色で、やや光沢があります。 樹幹についていました。


 背片の長さは 0.3mmほどです。


 上は腹面からの顕微鏡写真です。 背片の縁は微鋸歯状です。
 腹片の長さは背片の1/2ほどです。 腹片の輪郭にフォーカスを合わせていますが、腹片の歯牙は写っていませんし、腹葉もほとんど分かりません。


 上は腹片の歯牙にフォーカスを合わせています。 歯牙は「く」の字または「へ」の字形をしています。


 上は腹葉です。 1/3までV字型に2裂し、裂片は三角形で、基部は3~5細胞幅です。



 葉身細胞はトリゴンが大きく、細胞壁は中間肥厚しています。 油体は微粒の集合で、平凡社の図鑑では楕円体となっていますが、円形のものも多く見られました。

(2017.10.4. 奈良県 川上村)

2017-10-11

「苔 こけ コケ展 2017」のお知らせ

 恒例になりました京都府立植物園で実施される、通称「京都コケ展」のお知らせです。



 上のように内容も盛りだくさんで、日替わりのメニューもありますので、昨年も3日連続で来られた方もいらっしゃいました。
 なお、私の講演は、11月12日(日) 10:30~12:00 です。 普段見慣れている種子植物とはいろんな面で異なるコケ植物のおもしろさと、それを撮影するテクニックについてお話したいと思っています。
 私の講演だけなら事前申込みも参加費も不要(70歳未満の方の植物園入園料は必要)ですよ。

◎ 京都府立植物園の開園時間、入園料、アクセスなどについてはこちらをご覧ください。
 なお、コケ展の会場は正門を入ってすぐ右ですので、地下鉄北山駅で下車されますと、植物園には北山門からすぐ入れるのですが、コケ展会場までは広い植物園内を横断しなくてはなりません。


2017-10-10

モーリッシュシゲリゴケ


 上の写真の左側の(右側に比較して)大きな葉(背片)の苔がモーリッシュシゲリゴケ Tuyamaella molischii です。 樹幹に着生していました。

 腹面から背片、腹片、腹葉の関係が分かる写真を撮ろうとしたのですが、これらはピッタリとくっついていて、低倍率の顕微鏡写真ではうまく表現できませんでしたので、以下、個別に載せていくことにします。


 上は腹片のくっついた背片を腹面から撮っています。 この写真でも腹片の輪郭ははっきりしませんが・・・
 1枚目の写真でも葉の縁が白っぽくなっていますが、背片の縁の上半部は2~3列の透明細胞で縁取られています。 また、背片基部にはビッタ(vitta:苔類の葉に見られる細長い厚壁の細胞列)があります。
 円形の緑の濃いものは無性芽でしょう。


 透明細胞のある縁の一部を拡大してみました(上の写真)。


 上は、倍率を上げ(=被写界深度を浅くして)、できるだけ腹片のみにピントが来るようにして撮りました。
 腹片の第1歯はやや金槌型になっています。 また、1細胞幅で2~4細胞長(上の写真の場合は3細胞長)の第2歯はキール側に曲がっています。


 腹葉は、その基部付近から出ている仮根にいろんなものがくっつくなどで、なかなかきれいに撮れる腹葉が見当たりませんでしたが、上の写真(4枚の深度合成)は、どうにか形は分かります。
 腹葉は茎径の3倍ほどの幅で、1/2ほどまでV字型に2裂し、裂片は舌形をしています。



 上の2枚は、背片の中央付近と、縁の透明細胞近くの葉身細胞を見たものです。 細胞あたりの油体の数はばらつきが大きいのですが、中央付近の方が縁近くよりも多いようです。 油体は楕円体で、小粒の集合です。


 上は背片腹面で作られていた無性芽です。

(2017.10.4. 奈良県 川上村)

2017-10-09

トラマルハナバチ



 トラマルハナバチ Bombus diversus diversus がアキチョウジの花に吸蜜に飛来していました。 1/250秒で撮ったのですが、ハチの動きの方が速いようで、ブレブレです。 2枚目の写真では口吻を伸ばしはじめています。


 口吻を伸ばして花に挿し入れています。


 顔も花に突っ込んでいますが、これで口吻は花の奥にある蜜腺に届いているのでしょう。 トラマルハナバチの口吻は、日本に広く分布するマルハナバチの中では、最も長いものです。

(2017.10.4. 奈良県 川上村)

◎ トラマルハナバチはこちらにも載せています。


2017-10-08

カワニナ


 水生生物調査時に撮ったカワニナ Semisulcospira libertina です。 後の白い円形は、大きさが分かるように置いた1円硬貨です。
 ゲンジボタルの幼虫の餌となりますから、ゲンジボタルを増やすには、まずカワニナを増やさなくてはなりません。


 カワニナの繁殖期は春と秋で、左の小さな貝がカワニナの仔貝であれば嬉しいのですが、残念ながら外来生物のサカマキガイです。 下にサカマキガイを大きく撮った写真を載せておきますが、貝の形態は全くカワニナとは異なります。


(2017.9.26. 堺自然ふれあいの森)

2017-10-07

ホソべリミズゴケ


 写真はホソべリミズゴケ Sphagnum junghuhnianum ssp. pseudomolle です。 水の沁み出る斜面と山道との境にありました。
 日本で見られるミズゴケの仲間は、そのほとんどが北方系ですが、本種は日本では稀な南方系のミズゴケです。


 ミズゴケの仲間には、茎から横に伸びる開出枝と、茎に沿って下に伸びる下垂枝の、2種類の枝があります(上の写真)。 1枚目の写真で写っているのはほとんど開出枝です。


 上は開出枝です。 開出枝につく枝葉は内曲し、先はやや反り返っています。


 上は茎を隠している開出枝と下垂枝を取り去って撮ったものです。 茎の色は褐色です。 茎の横から出ている枝を見ると、1ヶ所から開出枝が2本と下垂枝が1本出ています(2枚目の写真は平らにするために開出枝の1本を除去しています)。
 茎葉は茎に張り付いていて見るのが難しいのですが、よく見ると写真の上の方で確認できます(写真の中ほどの茎葉は調べるために取り去っています)。 また写真の中央少し下には表皮を剥ぎ取った跡が写っています。 この剥ぎ取った表皮を検鏡すると・・・


 ホソべリミズゴケの表皮細胞は3層ですので、下の層の細胞も見えてしまいますが、表皮細胞は長方形で、孔が無いことは確認できます。


 上は茎葉です。 左側に少し皺がよってしまいましたが・・・ ホソべリミズゴケの茎葉は二等辺三角形で、舷は下部でも広がっていません。 また、中央部より上の透明細胞には糸状の肥厚が見られます。


 上は茎葉の縁近くです。 舷は2~3細胞列です。


 上は茎葉の先端で(4枚を深度合成しています)、数個の歯があります。 緑色の部分が光合成能力のある葉緑細胞で、白っぽい部分が水を貯め込んでおく透明細胞です。

 次に開出枝の枝葉を見ていきます。


 上は枝葉の断面です。 3枚目の写真で見たように枝葉は内曲していますから、写真の上側が腹面(枝に面している側)で、写真の下方が背面です。 断面で葉緑細胞は二等辺三角形で、腹面に広く、背面にはわずかしか開いていません。 つまりホソべリミズゴケの場合は、枝葉を腹面から見ると葉緑細胞がはっきり見えるが、背面から見ると透明細胞の壁に邪魔されて葉緑細胞ははっきりとは見えないということになります。


 上が腹面から見た枝葉で、葉緑細胞がはっきり見えます。 透明細胞の表面には強度を保つための糸状の結合組織が見られます。


 上が背面から見た枝葉です。 葉緑細胞はぼやけています。 透明細胞の表面には腹面では見られなかった、縁の厚い接合孔(注1:赤い○)や3子孔(注2:青い〇)など、たくさんの孔が見られます。

(注1) 接合孔:葉緑細胞を隔てて隣の細胞のものと相対する所にできる孔の組
(注2) 3子孔:透明細胞の角隅に相対する所に孔が3個集まったもの

(2017.10.4. 奈良県 川上村